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ことば以外でのコミュニケーション

 人間はことばを話す動物である。人間はことばで自分の言いたいことを相手に伝え、相手の言いたいことを理解する。ことばがなければ十分なコミュニケーションはできない。しかし、ことばたけでコミュニケーションしていると考えるなら、それは間違いだ。人間はことば以外に、様々なもので相手に情報を伝えているのである。それは表情や視線、ジェスチャー、相手との距離などである。これらのうち、表情は文化が違っても、あまり大きな違いはないだろう。しかし、文化が違えば全く意味が変わるものもある。それを知らなければ、コミュニケーションがうまくいかないことがある。ここでは、ジェスチャー、視線、相手との距離について考えてみたいと思う。

 ジェスチャーにはいろいろな種類があるが、ことばのかわりに使うものの中からいくつが例をあげる。

Man SVG だれかが胸の前で手を下に向けて振っていたら、あなたはどうするだろうか。近くに行くか、それとも遠くに行くだろうか。日本人がそのジェスチャーを見れば、「こちらへ来てください」の意味だとわかる。しかし、このジェスチャーは、ドイツの「あっちへ行ってください」という反対の意味のジェスチャーに良く似ている。だから、あなたが日本での意味を正しく理解できないで、その人から離れてしまったら、その人は気を悪くするかもしれない。

Man SVG 指2本で作って丸は、日本では「お金」か「OK」を意味する。イタリアなどでは(最近はドイツでも)これをすると、大変悪い意味があるため、非常に失礼だそうである。日本ではその意味はないので、日本人が指で丸を作っても、おこらなくでもよい。

Man SVG まだ、だれかが日本人をほめた場合、日本人は「いや、とんでもないです[I]。」と言いながら、手を顔の前で振ることがある。これは「違います」という意味で、「くさい」という意味ではない。

 次に視線の問題について考えてみよう。視線をどう使うかは、日本とドイツではかなり違う。ドイツでは会話のとき、相手の目を見るのが礼儀である。相手の目を見ないで話を聞けば、相手は「まじめに聞いていない」と思うだろう。日本では反対に、あまり長く相手の目を見ると、失礼だと感じる人もいるのだ。だから、日本人(特に目上の人)と話す場合には、目だけではなく、ときどき口や鼻や首など、相手の目より下のところも見たほうが良いのである。

 次にあなたが約束をやぶってしまった場合について考えよう。相手がドイツ人だったら、その人が文句を言っている間、あなたは目を見ていなければならない。もし視線をはずせ[II]ば、そのドイツ人は「私の話を聞いているんですか。ちゃんと聞いてください。」とおこるだろう。しかし、相手が日本人の場合は、あなたが「ああ、私は悪いことをしてしまった」と反省しているなら、下を向いていなければならない。日本ではこの場合、下を向くことは反省を表し、相手の目を見ることは、悪いことをしていないと思っていることを表すからである。だから、もし相手の日本人の目をずっと見ていれば、本当はあなたは反省していても、その人は「全く反省していない」と受け取って[III]しまう。日本語がよくわからない外国人は、一生懸命相手の言うことを理解しようとして、よくこの間違いをしてしまうようだ。視線が伝える意味は、文化で非常に違っていても、それに気がつく人は少ない。

 最後に相手との距離を見てみよう。あなたはだれかと話をする場合、どのくらい相手 から離れて立つだろうか。多分あまり意識したことはないだろう。しかし、考えてみると、相手が家族の場合や、友達の場合、またたとえば大学の教授の場合、それから初めて会う人の場合では、立つ距離が違うことが分かる。それに相手が男性の場合と女性の場合でも違うかもしれない。そして、この相手との距離が普通より遠かったり、近かったりすると落ち着かないだろうと思う。この落ち着いて話ができる距離も日独で違うのである。一般的に言って、相手がどんな人でも、日本人2人が会話をする場合は、欧米人2人の場合より離れて立つ。それで、次のような笑い話がある。日本人と西洋人が話をしていた。日本人は「距離が近くで落ち着かない」と思った。日本人が一歩後ろへ下がったら、西洋人は「遠くで落ち着かない」と感じて、一歩前へ進んだ。日本人がまた一歩下がって、西洋人がまた一歩進んで、日本人がまた下がって…。そして日本人はとうとう背中がかべについてしまった、という話である。日本へ行ったら、相手の背中がかべにつきそうかどうか、気をつけよう。

 ここまで見たように、文法や単語を完全に覚えたら、コミュニケーションで何の問題もないと考えるのは間違いである。ここに書いたことはほんの一部分だ。しかし、ことば以外にもコミュニケーションでの問題があることを知れば、気をつけて見ることができる。そして、気がついたことから、少しずつ覚えればいいだろう。

 

 

I   いや、とんでもないです   „Ach, überhaupt nicht.“ siehe Situationsübung auch: 「いいえ、とんでもありません」 „Nein, ganz und gar nicht“ siehe 1. Semester Situationsübung Lektion 13
II   視線をはずす   den Blick abwenden, den Blickkontakt aufheben
III   受け取る   hier: auffassen

「ことば以外でのコミュニケーション」についての質問

 

  1. 人間はことば以外にコミュニケーションのために何を使いますか。
  2. だれかが胸の前で手を下に向けて振っています。日本ではそれはどんな意味ですか。ドイツでは?
  3. 指二本で作って丸は日本ではどんな意味ですか。イタリアなどでは?
  4. 日本人をほめたら、手を顔の前で振っています。日本ではそれはどんな意味ですか。ドイツでは?
  5. 会話のとき、相手の目を見て話しています。これはドイツではどうですか。日本では?
  6. 約束をやぶってしまったので、相手が文句を言っています。あなたは相手の目を見ながら聞いています。相手がドイツ人だったらどう思いますか。日本人だったら?
  7. 相手との距離は日本とドイツではどう違いますか。
  8. コミュニケーションについてどう考えるのが間違いですか。

「ことば以外でのコミュニケーション」というテーマで作文を書いてください。